何らかの理由によって断水が発生すると、当然ですが水道が使えなくなります。企業としては事業に使用する水が確保できなくなることで事業停止となるリスクもあり、復旧までの時間が長ければ長いほど、企業力の低下や利益の損失は大きくなってしまうでしょう。ほかの防災対策やBCPと同様、企業には断水時でも事業の継続または復旧までの時間短縮といった「水道BCP」が求められています。今回の記事では、断水が発生する原因とともに、企業として行うべき水道BCPについて解説します。
Contents
断水が起こる原因
断水が発生すると、水道管からの水の供給がストップし水が使えなくなります。断水が起こる原因は突発的なものが多く、水道BCPによる備えが重要です。断水が起こるおもな原因を解説します。
計画断水
計画断水とは、水道管の新設や老朽化した水道管の更新工事、または降水量が少ないため貯水池の水位が低下しているときなどに行う、一時的な断水のことです。工事日程に合わせて、あらかじめ断水が行われる日時が設定されます。計画断水が発生する場合、断水となる日時に合わせて事業用の水や飲料水などを確保しておく必要があります。
地震
大規模な地震が発生し、地中に埋められた水道管が破損または損傷すると、水道管内の水が地上に噴出します。水道管を水が通らなくなり各家庭や事業所に供給できなくなり、断水が発生します。石川県の発表によると、令和6年能登半島地震では地震発生直後は最大約11万戸が断水となり、2024年7月現在まだ断水が続いている地域もあります。
地震によって引き起こされた津波によって水道管や住宅と水道管の接続部分が破損した場合も断水が発生します。国土交通省の発表では、東日本大震災の津波によって約230万戸が断水、特に断水の被害が多かった宮城県の断水は約62万戸にのぼるとしています。
水道管の老朽化
水道管が経年劣化によって破損すると漏水が発生します。漏水によって水道管内の水圧の低下や、道路の陥没が発生する可能性が高まると、緊急断水が行われる場合があります。水道管の法定耐用年数は40年であり、1980年以前の水道施設の更新整備が進んでおらず、老朽化による破損が起きることがあります。
水道管の凍結
水道管が凍結すると水道管内の水も凍結するため、蛇口へ水が届かなくなり断水となります。水道管の凍結は、冬季や寒冷地のほか、長時間使用していない水道でも起こりやすいため、注意が必要です。
停電
停電が発生すると、水道施設が各家庭や事業所へ水を供給するための電力が使えなくなるため断水が発生します。
断水による企業への影響
断水が発生することで、日常生活はもちろん企業の事業活動にも悪影響があります。断水が企業にもたらすおもな影響を解説します。
事業の停止
水を資源とする、または水に依存する業種は断水が起きると、事業を停止せざるを得ない事態となります。たとえば食品や飲料、鉄鋼業や生コン業などの水を生産工程で使用する製造業の場合、断水によって生産活動そのものがストップしてしまうでしょう。水冷式の自家発電機を使用している場合も、機器の停止によって生産活動や企業活動が停止してしまいます。事業そのものが停止してしまうため、企業としての存続にも関わってしまうリスクがあります。阪神淡路大震災では、水が使用できないことで休業に追い込まれた企業も多くありました。
生産性の低下
水への依存度が低い企業でも、断水によって生産性が低下する恐れがあります。たとえば社員や顧客へ提供するトイレをはじめとした生活用水が提供できないことで、営業活動を停止する、といった企業もあるでしょう。
従業員への不便や健康被害
断水が続くことで、企業内での水が使えないことになります。飲料用の水が確保できないのはもちろん、社員食堂などの福利厚生や企業の付帯施設も利用ができなくなり、従業員への不便が発生します。さらに、トイレが使えない不便も発生します。
断水の復旧が長引けば長引くほど、水分を摂取できないことでの脱水症状や熱中症へのリスク、トイレを使えないことでの腎臓への負担増や感染症リスクなど、従業員や関係者への健康被害が出てしまう可能性があります。
企業の断水への備え「水道BCP」でやっておくべき対策
断水が発生すると、事業継続や従業員への健康被害などさまざまな悪影響が出ます。断水に備えて、企業が行っておくべき対策が「水道BCP」です。水道BCPはほかのBCPと同じく、断水時でも早急な事業の復帰や継続を目指すための計画を指します。
BCPについては以下の記事でくわしく解説しています。
BCP(事業継続計画)とは?企業としてやるべき災害への対応を解説
水道BCPとして、企業がやっておくべき対策を解説します。
受水槽の設置
受水槽とは、水道管を通って送水された水を貯めて置ける容器のことです。マンションなどの集合住宅をはじめ、ビルや公共機関、医療機関などに設置されています。受水槽は一時的に大量の水を使用するときにも、建物全体の給水圧や給水量を保てるほか、断水時にも水が確保できる役割も果たせます。
ただし、10㎥を超える受水槽は「簡易専用水道」、有効容量が10㎥以下の受水槽は「小規模受水槽水道」とみなされ、水道法や自治体の条例により以下の対応が義務付けられています。
受水槽の種類 | やるべき対応 |
10㎥を超える受水槽
(簡易専用水道) |
・1年以内ごとの水槽の清掃、厚生労働大臣の指定する検査機関による定期検査などの実施
・遊離残留塩素の検査、水質検査、貯水槽の掃除の定期的な実施(7日以内、6ヶ月以内、1年以内) |
有効容量が10㎥以下の受水槽
(小規模受水槽水道) |
・保健福祉事務所・保健所への給水開始の届け出
・清掃の実施などの管理基準の遵守 ・遊離残留塩素の検査、水質検査、貯水槽の掃除の定期的な実施(7日以内、6ヶ月以内、1年以内) |
また、設置する受水槽の容量は以下いずれかの方法で算出し、決めましょう。
・1人1日当たり使用水量×使用人員(計画1日使用水量)
・単位床面積当たり使用水量×延床面積
・計画1日使用水量の4/10~6/10
第二水源の確保
水道以外から水を供給できる、第二水源を確保しておく方法も有効です。たとえば井戸を掘削して地下水を給水できるようになれば、断水時の水として使用できるようになります。工業用水を活用する方法もあります。
飲料用水の備蓄
断水すれば、ウォータークーラーなどから出る水の供給も当然ストップします。従業員や関係者のための飲料用水の備蓄をしておきましょう。必要な人数×3日間の水が最低ラインですが、1週間分の水を備蓄しておけば地震や台風といったほかの災害時の飲料用水備蓄も同時にできます。
災害用トイレの備蓄
断水をすれば、トイレも使用できなくなります。復旧または給水が来るまでの間のトイレを確保しておきましょう。長期保存も可能な災害用トイレを備蓄しておけば、断水だけでなくさまざまな災害発生時や非常時にトイレを確保できます。
まとめ
断水のおもな原因と断水による企業への影響とともに、企業の断水対策である水道BCPについて解説しました。断水は計画的に行われるだけでなく、さまざまな要因で突然発生することがあります。水道BCPを策定し、断水に備えておきましょう。