国土交通省および各自治体では、毎年6月を「土砂災害防止月間」と定めています。梅雨や台風の発生とともに土砂災害の危険性が高まるために、日頃から土砂災害への対策や備えをしておきましょう。本記事では、土砂災害防止月間の概要や、各自治体で行っている取り組み、さらに家庭や企業でできる土砂災害への防災対策について解説します。
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Contents
土砂災害防止月間とは?
まず土砂災害防止月間の概要や目的について解説します。
土砂災害防止月間の概要
土砂災害防止月間とは、国土交通省および各都道府県が主催(内閣府、消防庁、文部科学省、厚生労働省、その他関連団体などが後援予定)で行われる、土砂災害への知識啓蒙や防止のための各取り組みのことです。期間は毎年6月いっぱいで、令和7年は6月1日から6月30日までとなっています。なお、6月1日から7日までは土砂災害防止月間と並行し、がけ崩れ防止週間として指定されています。
土砂災害防止月間の目的
土砂災害防止月間の目的は、「土砂災害の防止に対する国民の理解と関心を深めることで、土砂災害による人命・財産の被害の防止と軽減をすること」です。土砂災害に関する知識や関心を高めるために、土砂災害防止月間中は国土交通省や各都道府県主体で土砂災害に関する防災知識の普及、警戒避難体制整備の促進などの取り組みや活動が行われます。
土砂災害防止月間が誕生した背景
土砂災害防止月間が誕生した背景には、甚大な土砂災害の発生により多くの被害を出したことによる教訓が込められています。
以下のような甚大な土砂災害の発生とともに、法律改定をはじめとしたさまざまな取り組みが行われました。
発生した災害 | 講じられた取り組み |
---|---|
平成26年8月豪雨 | 災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律の一部改正
都道府県に対する基礎調査の結果の公表の義務付け 都道府県知事に対する土砂災害警戒情報の市町村長への通知及び一般への周知の義務付け |
平成28年8月の台風10号による災害 | 土砂災害警戒区域内に立地する要配慮者利用施設管理者等に対して避難確保計画の作成と避難訓練の実施を義務付ける等の措置 |
法律改定などの取り組みを行うことで、多くの自治体では土砂災害警戒情報や避難勧告等の発表、住民が声をかけ合う等の地域の共助によって難を逃れられた例もあった一方で、逃げ遅れによる人的被害が多数発生しました。また、砂防施設が未整備だった都道府県では土砂災害を防ぎきれず人的災害を出したケースもありました。
上記で発生した土砂災害以外にも、以下のような甚大な被害を出した土砂災害が発生しました。
- 平成29年7月九州北部豪雨:局地的・集中的に多量の流木を伴う土砂災害が発生
- 平成30年7月豪雨:広島県や愛媛県等西日本を中心とした長雨によって、昭和57年以来最大の発生数となる土砂災害が広域に発生。土砂と洪水の同時氾濫による土砂・洪水氾濫は社会インフラにも甚大な被害をもたらした
- 令和元年10月の東日本台風にともなう豪雨:東日本を中心に広域にわたり土砂災害が発生。台風により発生した土砂災害の中では最大の土砂災害発生件数を記録
- 令和6年1月の能登半島地震で:石川で最大震度7を観測、石川県内を中心に450件を超える土砂災害が発生、能登半島地域において多数の河道閉塞が形成される
- 令和6年9月20日からの大雨:令和6年能登半島地震の復興途中の被災地において再び多数の土砂災害が発生
地方自治体によって土砂災害への対策はソフト・ハード面でも差があり、行政主体では限界があります。そこで住民自らが「災害は我が事、自らの命は自らが守る」という自助意識の醸造と、地域社会と協力して災害から身を守る共助の防災行動の促進を目的に、土砂災害防止月間が作られました。
土砂災害防止月間で行う具体的なこと
土砂災害防止月間中では、国土交通省や各都道府県が主体となり、土砂災害防止への啓蒙活動のために以下のような取り組みや催しが計画されています。
- 土砂災害に対する危険性・対策・効果の周知、対策工事実施への理解促進のための幅広い広報の実施
- 土砂災害(特別)警戒区域等の土砂災害の危険性が高い箇所の周知徹底と土砂災害の危険性や住民自身による適時・的確な避難行動の重要性に対する理解促進
- 住民自身の的確な避難行動につなげるための土砂災害(特別)警戒区域等の土砂災害の危険性が高い箇所や避難場所・避難経路の周知、確認及び点検の実施(ハザードマップ等を活用)
- 防災訓練や防災教育の実施および防災リーダーの育成
- 土砂災害警戒情報の理解促進、発表された場合の都道府県から市区町村への情報伝達体制および住民への周知方法の確認
- 大規模な土砂災害が急迫している場合に通知される土砂災害防止法に基づく土砂災害緊急情報の伝達体制の確認、理解促進
- 防災上の配慮を要する者(要配慮者)が利用する施設の管理者に対する土砂災害の危険性に関する周知および避難確保計画作成や避難訓練実施等の警戒避難体制の整備促進
- 砂防設備等の機能や効果に関する理解を深める広報の実施
- 砂防設備等の点検および砂防指定地等の周知・点検の徹底
- 砂防関係工事の実施等に必要となる担い手確保のための取組および安全確保の徹底
土砂災害防止月間中の国や各自治体の取り組み事例
土砂災害防止月間では国や各自治体にて、以下のような取り組みが行われています。
- 土砂災害防止功労者(個人または団体)の表彰
- 小中学生を対象とした土砂災害防止に関する絵画・作文の募集、表彰
- 土砂災害防止に関する広報活動の実施(各都道府県の広報誌や新聞、Webサイトでの掲示など)
- 土砂災害(特別)警戒区域等の土砂災害の危険性が高い箇所および避難場所・避難経路等の周知・点検の実施
- 令和7年度「土砂災害・全国防災訓練」の実施
- 住民、教育関係者、小・中学生・高校生等を対象とした講習会、現場見学会、出前講座等の開催
- 要配慮者の把握、説明会の開催
- 砂防設備等の点検および砂防指定地等の周知・点検の実施
- 砂防関係工事の実施等に必要となる担い手確保のための取組および安全確保の徹底
土砂災害防止月間にやっておきたい家庭での防災対策
土砂災害防止月間は地域的な防災意識を高めるだけでなく、家庭での防災対策を見直すのにもおすすめの機会です。家庭でやっておきたい土砂災害への防災対策について解説します。
自宅のある場所が「土砂災害危険箇所」かを確認
各都道府県にて、土砂災害の恐れがある場所を「土砂災害危険箇所」または「土砂災害警戒区域」に指定しています。自宅が該当するかどうか確認しておきましょう。国土交通省のホームページまたは自宅のある市町村への問い合わせで確認できます。
大雨の際には「土砂災害警戒情報」に注意
大雨による土砂災害発生の危険度が高まったとき、市町村長の避難勧告発令の判断や住民の自主避難の参考となるように、都道府県と気象庁が共同で「土砂災害警戒情報」を発表します。土砂災害警戒情報は、テレビ、ラジオの他に、各都道府県の砂防部局や気象庁のホームページで確認可能です。土砂災害警戒情報が発表されたら、早めの避難を検討しましょう。
周囲の状況や雨の降り方にも注意し、自治体からの避難勧告等が発令されていなくても、土砂災害の前兆現象に気付いたときなど、危険を感じたら自主避難できるようにしておくことが重要です。
土砂災害警戒情報や大雨警報が発表されたときには、補足情報として、「土砂災害警戒判定メッシュ情報」が提供開始されます。メッシュ情報は、5㎞四方の領域(メッシュ)ごとに、2時間先までの土壌雨量指数等の予想を活用し、土砂災害発生の危険度の高まりを5段階で判定した結果を、色別で表示したものです。危険度に応じて、以下のような避難行動を行いましょう。
- 「実況または予想で大雨警報の土壌雨量指数基準に到達」(赤色のメッシュ)した領域の土砂災害警戒区域等に住んでいる場合、いつでも避難を開始できるように準備
- 「予想で土砂災害警戒情報の基準に到達」(薄い紫色のメッシュ)した場合は、命に危険を及ぼす土砂災害がいつ発生してもおかしくない状況となっているので、土砂災害危険箇所等の外の、少しでも安全な場所へ速やかに避難
- 「実況で土砂災害警戒情報の基準に到達」(濃い紫色のメッシュ)した場合(記録的短時間大雨情報が発表された場合も同様)、過去の土砂災害発生時に匹敵する極めて危険な状況のため、土砂災害警戒区域等にいる人はこの段階までには避難を完了しておくこと
防災用品の備蓄をしておく
土砂災害により避難を開始する場合、または土砂災害後ライフラインが復旧するまで自宅避難を続ける場合があります。日頃から持ち出し避難、自宅避難用で防災用品の備蓄をしておきましょう。
非常用持ち出し袋の中身については、以下の記事で詳しく解説しています。
防災グッズに絶対必要なものを自宅避難・持ち出し避難に分けて解説
まとめ
土砂災害防止月間の基本情報や各自治体での取り組み、やっておきたい土砂災害への備えについて解説しました。6月は梅雨に入り、降水量も増え、土砂災害の危険度も上がります。この機会に自宅の防災についても見直しておきましょう。